映画「猿の惑星」(1968年第一作)を観たときの強烈な体験は未だに忘れません。長い宇宙飛行の果てに宇宙船は猿が人間を支配する惑星に不時着するのですが、そこは未来の地球だったという結末。岩礁の間に朽ちて傾いた自由の女神を発見して「なんということだ、おれたちは帰っていたのだ」と主人公が呆然とするラストシーンは、中学生だった私にとってとてもショッキングでした。
光速で移動し続けると、宇宙船の中を流れる時間と地球で流れる時間がまったく違う経過になるという、あの有名なアインシュタインの相対性理論に基づいたストーリーです。2014年に公開された「インターステラー」でも、この理論に基づいた父娘の物語が描かれています。艱難辛苦のミッションの果てに宇宙から帰還した父が、自分よりはるかに年老いた臨終間際の娘に再開するというシーンが印象的でした。
さて、こうした時間の不思議にまつわる日本の物語といえば浦島太郎です。助けた亀に連れられて訪れた竜宮城で3年過ごした太郎が故郷に帰ってみると、もう300年も経っていたというお話。このお話の時間経過は相対性理論でしか辻褄が合いませんね。太郎はきっと海岸に不時着した宇宙人に善行を施し、亀の形に見える宇宙船に乗せられて彼らの世界に光速移動したのでしょう。
銀嶺幼稚園の前を走る綱島街道を横浜方面に進んだ先にある浦島ヶ丘は、この浦島伝説の場所とされています。綱島街道が国道1号線とぶつかりT字路となる地点から先は、昔はすぐ海岸でした。光速で時間を旅した太郎は、今の神奈川新町駅あたりに広がっていた海岸に戻されたのかもしれません。
現在の浦島伝説は明治期に再構成されたものですが、元となる物語は日本書紀の時代(8世紀)に既に存在し、太郎が訪れたのも龍宮城ではなく蓬莱という理想郷のような世界だったようです。その最古の浦島伝説の時代からすると、300年後の世界として太郎が驚いた時代もせいぜい平安時代。そこからさらに1000年たった現在を太郎が見たら何を思うでしょう。全長200mもの巨大な船が停泊し、直径100mを超す観覧車が回り、ロープウェイで空中を人が移動するみなとみらい地区の景観は、宇宙船で訪れた理想郷・蓬莱と同じだと思うかもしれません。そんな浦島太郎の気分になって夏のみなとみらいを楽しんでください。
園長 永井 洋一