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ゆきわり草2月号

2022.2 園長 永井 洋一


節分では豆をまいて鬼を追います。豆をまくのは「魔・滅」という語呂合わせからだとする俗説があります。オニは人を食う恐怖の存在として語り継がれていますが、自然災害、疾病など、人智を超えた力の前で私たちは無力であり、いとも簡単に命を奪われてしまうという厄災全般に対する教訓を、先人たちは架空の怪物の姿で伝えてきたのでしょう。

科学技術が進歩した現在、節分で恐ろしい姿を誇示するオニの中に実はヒトが入っているのだということを子どもたちは知っています。しかしその一方で、得体の知れない巨人がまったく理不尽、無差別に人を襲い食べてしまう「進撃の巨人」というアニメが大変な人気を博しています。いつどこからやってくるかわからないオニに食われてしまう恐怖というコンセプトは、AIが活躍する現代でも脈々と生きています。

さて、今、人類が実際に戦っているのは「ウイルス」というオニです。どこにいるか見えない、いつ、どこからやってくるかわからない、そして襲われたら命を奪われるかもしれない…。ウイルスの属性はまさにオニそのものです。

ウイルスは遺伝子とそれを包むタンパク質しかない単純な極小の物質です。自身の細胞さえ持たないので自力で増殖することができず、何かにとりついてその細胞を利用して増殖します。同じオニでも、力づくで金棒を振り回すツノを生やした巨体の方が、どれだけ対抗策が考えやすいことでしょう。目に見えず、知らぬ間に静かに体内に忍び込む現代のオニへの対処はとてもやっかいです。

顕微鏡写真を見ると、現代のオニは丸い体からいくつものツノを突き出しているようです。放射状に突き出された現代のオニのツノは、伝説のオニのそれとは違い、相手の細胞に取り憑くための道具です。そんな狡猾な道具を太陽光線に例えてコロナと呼ぶのは、少し好意的すぎる気がします。

扮装したオニのツノを怖がって泣いていた子どもの中から、将来、コロナのツノをもぎ取る手段を解明する研究者が出てくるといいですね。その時、本当の意味で「豆まき」が完結することになるでしょう。


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